産まれてすぐに子供の難聴の有無をチェックすることができる新生児聴覚スクリーニング。そこで「リファー」だったということは、難聴があるかをもっと詳細にチェックしなければなりません。

聴力の評価は自分で音に対する応答ができなくても行えますから、療育システムのそろった精密医療機関を受診するべき。言語聴覚士も在籍しているところであれば、難聴の有無にかかわらず、今後の相談ができるはずです。

ここでは、新生児聴覚スクリーニングが「リファー」で出たときの対応について言語聴覚士が説明します。

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新生児聴覚スクリーニングは2つの結果が出る

新生児聴覚スクリーニングは、生後間もない子供の聴力をある程度調べるための検査です。

結果は「パス」「リファー」の2つで表現され、「パス」であれば現時点で音に対する反応アリという判断ができます。

一方、「リファー」は要再検という結果であり、詳細な検査を行い、難聴の有無を確認するべきと判断されます。この2つの結果をきちんとわかっていなければ、検査をする意味がありません。

多くの産婦人科が検査を導入している現在。保護者は医療機関任せで結果を受け入れるのではなく、子供のために正しい知識を持つべきです。「パス」「リファー」に対する結果の見方と、その時点における子供の状態を学びましょう。

「パス」でも今後のチェックが必要

新生児聴覚スクリーニングが「パス」だった場合には、その時点で「音に対する反応があった」という判断ができます。ですから、保護者にとっては安心できる結果であることが伺えます。

ただし、新生児聴覚スクリーニングは万能な検査ではありません。あくまでその時点で「反応あり」というだけであって、聴力が正常であるという結果ではないことを知っておかなければなりません。難聴のタイプによっては、新生児聴覚スクリーニングでは把握できないものもありますし、成長につれて難聴が生じるものは把握できません。

今後の言葉の発達を鑑みて、必要に応じて聴力のチェックを行うことも忘れないようにしましょう。母子健康手帳には子供の成長が確認できる質問事項が掲載されています。月齢に沿ってチェックを行って、聞こえや言葉に関する成長が遅いと感じられるようであれば、詳細な検査を受けるべきです。

「リファー」は再検査を行うべき

新生児聴覚スクリーニングを実施して「リファー」が出たときには、必ず再検査を実施して結果の整合性を確認します。生後数日に検査を実施するのですが、羊水が耳内に残っていると反応が鈍くなるリスクが生じます。

産婦人科でも偽陰性が出ないように配慮しながら検査のスケジュールを決めていますが、それでも「リファー」が出ることがあるのです。だからこそ、その結果が本当に正しいものであるかの確認を、まずは再検査という形で行っているのが現状です。

再検査が必要なケースは、

  • 両耳共に新生児聴覚スクリーニングで「リファー」だったケース
  • 片耳のみ「リファー」だったケース

このどちらも再検査が必要です。つまり、両耳「パス」だったというもの以外は、再検査を実施して難聴の有無を確認するべきです。

再検査でも「リファー」の場合はどうする?

新生児聴覚スクリーニングを実施して、結果が「リファー」だったときには再検査を実施するのが一般的。

そこで両耳とも「パス」になるようであれば、1か月健診で再検査を行うなどしながら再現性の有無を確認します。それでも両耳もしくはどちらか一方が「リファー」となった場合には、精密検査が行える施設への紹介が成されます。

検査を実施する産婦人科は、保護者へ過度な心配を抱かせないような適切な説明をしなければなりません。新生児聴覚スクリーニングを実施するうえで、「リファー」だったときの対応こそ、細やかな配慮が必要とされます。

日本耳鼻咽喉科学会から出ている新生児聴覚スクリーニングマニュアルにも、このことが強く示されています。検査の説明と実施・その後の結果説明が整備されていなければ、保護者の不安を大きくするだけになってしまいます。

その時点では難聴の有無は判断できないものの、精密検査を行って詳細を確認しなければならないということを知ってもらわなければなりません。

精密検査が行える施設への橋渡しを行う

新生児聴覚スクリーニングは産婦人科もしくは総合病院などでは小児科で実施することもあります。その際に「リファー」という結果が出たときには、然るべきところへの紹介をしなければなりません。

日本耳鼻咽喉科学会が開示している「新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関リスト」を参考にして、お住まいの近くの施設への紹介が必要です。そこには精密聴力検査を行うだけでなく、言語聴覚士による療育システムも整っていますので、難聴の有無にかかわらず、子供の心配を相談できる体制があります。

保護者の「聞こえていないかもしれない」という不安を少しでも解決できるよう、新生児聴覚スクリーニングを実施している施設は橋渡しをしなければなりません。生まれて間もない時期に「耳に障害があるかもしれない」という不安をいたずらに刺激しないよう、説明や対応に配慮しなければならないのです。

保護者に行う適切な結果説明が重要

新生児聴覚スクリーニングで「リファー」だった場合、診察を担当する医師は検査の結果を保護者に伝え、迅速に「新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関リスト」に掲載されている施設への紹介を行います。

安易に検査結果を医師以外のスタッフが保護者に伝えてはいけませんし、新生児聴覚スクリーニングが「リファー」だからといって、その時点で「難聴である」という断定をしてはいけません。

精密検査を実施して、聴力が正常であったという結果になることもあります。ということは、「難聴である」という説明は、新生児聴覚スクリーニングを実施した時点で行うのは不適切なのです。

新生児聴覚スクリーニングが「リファー」になる割合

新生児聴覚スクリーニングは1000人検査を行うと4~5人くらいが「リファー」として検出されますが、そのうち難聴であるという結果に至るのは1~2人です。難聴は両耳共に存在する場合もありますし、どちらか一側だけというケースも存在します。

地域によって差はあるものの、全国的なデータによって先天的に難聴を認める割合は1000人に1~2人ということが一般的。あとは後天的に生じる難聴があるため、子供の成長に伴って聞こえのチェックを行うことが必要です。

ほかの先天的な疾患よりも出現頻度が多い

日本では生まれた赤ちゃんへ「新生児マス・スクリーニング」といって、先天性代謝異常検査が実施されています。国の政策で行われている検査のため、保護者が検査費用を負担することはありません。

この「新生児マス・スクリーニング」で検出できる病気はフェニルケトン尿症やクレチン症など、いくつもの病気がありますが、80000人に1人の割合や、5000人に1人の割合など、難聴児の出生率よりも少ないものばかり。

先天的な難聴を認める出生率は1000人に1~2人ですから、国として全ての子供に実施されることが望まれます。

今のところは地域に実施が委ねられているので、先進的な地域では全例実施を行い、新生児聴覚スクリーニングが100%行われているということもあれば、保護者に検査実施の有無を伺い、任意で行っているという施設も存在します。だからこそ、全ての子供が検査実施には至っていないのが現状です。

調べていなければ難聴発見が遅れる

アメリカでは1-3-6ルールといって、新生児聴覚スクリーニングで生後1ヶ月までに精密検査の必要性を見出し、3ヶ月までに精密検査を実施。検査によって聴力を調べ、補聴器の装用を検討して装用開始をするのが6ヶ月までというのが浸透しています。

でも、日本はまだまだそれが全ての地域で行われているわけではありません。

新生児期に難聴の有無を検査しなければ、子供の成長を保護者がチェックして気付く時期が、難聴発見のきっかけになります。それは言葉を話し始める時期になってしまうことが多く、アメリカのような早期発見からの早期支援とは程遠い状況となります。

目に見えない障害だけに、聞こえのチェックは早期に行って介入の必要性を検討することが重要です。その初めのきっかけになるのが、新生児聴覚スクリーニングです。

難聴をそのままにしていると、言葉の発達が遅れるといった二次的な障害へと波及します。そこで初めて聴力を調べてもらうのではなく、もっと早くから子供の状態を把握することが保護者には知ってほしいことなのです。

新生児聴覚スクリーニングの正しい認識が必要

新生児聴覚スクリーニングは「難聴である」と断言できるものではありません。でも、音に対する反応がある・なしを調べることができる画期的なものです。赤ちゃんが応答する必要のない他覚的な検査なので、子供の状態を知るためにも検査を実施するべきです。

早くに障害がわかることは、保護者にとってショックに思うこともあるでしょうが、それでも後になってわかって手立てが遅れるよりも、早期発見から介入をスムーズに行うことで、聴力が正常な子供と同じように言葉の成長を促すことは不可能ではありません。

新生児聴覚スクリーニングの必要性と、「リファー」だったときの対応がわかっていれば、これからの未来を明るく幸せなものにすることは十分可能ではないでしょうか。