子供の難聴は先天的に生じていることがあります。ですから、新生児聴覚スクリーニングを使用して、生後すぐに難聴の存在を確認することが注目されています。

新生児聴覚スクリーニングは難聴児の療育に携わる言語聴覚士からも、全ての子供に対する検査を切望されているほどなのです。

ここでは、検査実施の意義(必要性)や検査方法と結果の解釈、早期発見のメリットも踏まえ、言語聴覚士が新生児聴覚スクリーニングの大切さを説明します。

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新生児聴覚スクリーニングとは?検査時期や費用、必要性と目的について

新生児聴覚スクリーニングは、アメリカでの研究を経て日本に導入され、現在では多くの産婦人科もしくは小児科で実施されています。

子供の反応を必要とせず、難聴が存在するかもしれないという目星をつけられる画期的な聴覚検査は、厚生省(現在の厚生労働省)による研究の後、各自治体での実施へと広がりを見せています。

新生児聴覚スクリーニングは出生後わずか数日のうちに検査実施が可能です。そこで反応を確認して難聴の存在を疑うことができるという画期的なものです。

「聞こえる」「聞こえない」の検査は、応答ができるようになって初めて成立するという認識があるかもしれませんが、他覚的に調べられるものが存在するのです。

検査方法と家計への費用負担

現在日本で実施されている新生児聴覚スクリーニングは、大きく分けて2つ存在します。

  • 自動聴性脳幹反応(Automated Auditory Brainstem Response, 以下、自動ABR)
  • 耳音響放射(Otoacoustic Emissions, 以下、OAE)

2つの検査は、どちらも子供の反応を必要とせず結果を出すことができます。ヘッドホンやイヤーピースといって、耳の中に耳栓のようなものを挿入し、音を流して反応を検出します。

検査結果は数分でわかり、反応は「パス」と「リファー」で出てきます。検査機器は取り扱っている会社によって異なりますが、自動ABRとOAEのどちらもこのような反応で子供の状態を確認でき、難聴の疑いを考える判断材料となるのが特徴です。


新生児聴覚スクリーニングは1回の検査で費用を負担しなければならない場合もあれば、包括医療の範囲内ということで、直接保護者が検査費用を支払わなければならないという場合もあります。もしくは、自治体で補助を行っており、少ない負担で検査が受けられる体制を整えているところもあります。

費用負担は出産した産婦人科によって異なるため、妊娠中の方は新生児聴覚スクリーニングの家計への負担を伺ってみましょう。ある自治体では費用負担をする場合、平均3000円くらいを支払っているというデータも出ていますが、施設によって異なるという認識を持つべきです。

生まれてすぐ検査を行う意義(必要性と目的)

新生児期に行えるということは、生まれてすぐに実施できるというメリットがあります。しかも、動きの多くない時期に実施できるというのは、体動によるノイズ混入のリスクも少ない状態です。

自然睡眠下で検査実施が行えるというのも大きなメリットです。子供を睡眠導入剤で眠らせて速成する聴覚検査は存在しますが、こうした負担をかけることなく難聴の存在を知ることができます。

生まれてすぐに行う目的としては、難聴の疑いが出た時に、すぐに次のステップへと進むことができる点ではないでしょうか。

「この子、聞こえにくいかもしれない」という疑いは、新生児聴覚スクリーニングを実施しなければもっと後に気づくことです。そのタイムラグを生じさせないために、生後数日のうちに実施するのです。

新生児聴覚スクリーニングの検索結果でわかること

新生児聴覚スクリーニングで知っておかなければならないことは、あくまで「難聴があるかもしれない」という情報です。検査を実施してすぐ「難聴である」という診断にはなりません。そのことを実施する立場のスタッフは念を押して説明しなければなりません。

検査の必要性と結果の解釈については、正しく保護者に認識してもらうスキルが無ければ不安を大きくするだけの検査になってしまいます。

検査結果が「パス」だったときの考え方

新生児聴覚スクリーニングが「パス」だったとき、「検査の音に反応あり」であったことがわかります。ただし、生まれてすぐに行った検査ですから、その後に生じる難聴や、先天的なものでも後になって難聴が出るものは発見できません。

検査時点で難聴の可能性は否定的であるという解釈のもと、これからの成長を母子健康手帳の聞こえや言葉の発達に関するところを確認し、保護者が子供の聞こえに何らかの疑いがある場合には、乳幼児健康診査での相談や、精密検査が行える耳鼻咽喉科を受診しましょう。

検査結果が「リファー」だったときの考え方

新生児聴覚スクリーニングが「リファー」だったときには、「精密検査を受ける必要がある」という認識を持つべきです。この検査で音に反応していなかったことが、すぐに難聴と決定できるものではありません。

あくまで「ささやき声」のような小さな音への反応を拾っている検査なので、「リファー」だからといって落ち込むのではなく、その後の精密検査ではっきりさせるべきです。これは、両耳とも「リファー」だった場合でも、片耳のみそうだった場合でも同じです。

新生児1000人のうち、先天的に難聴がある割合は1~2人です。でも、新生児聴覚スクリーニングでは4~5人くらいが「リファー」として検出されています。

その後の精密検査で難聴が見つかる場合もありますし、聴力は正常というケースも存在します。だからこそ、その後の精密検査によって、詳細を知ることを考えなければなりません。

早くに難聴の有無をピックアップするメリット

新生児聴覚スクリーニングは、早くに難聴の有無を知るきっかけを作ってくれます。生後間もなくしてそれが判断できるのですから、必要なことを早期から導入できるのが最大のメリットです。

早く見つけることは保護者のショックを不用意にあおるのではないかと思うかもしれませんが、その後の成長がきちんと成されることを聞き、育児に希望をもって臨んでもらう方が良いのです。

聞こえにくいという状態に気づくことなく子育てを行い、子供が話し始めるくらいの時期に「おかしい」と気づくよりも、早くにピックアップできる方が時間のロスも少なくできます。

子供の言葉の成長に大きく影響する

子供の難聴に気づくタイミングは、言葉を話し始める時期に集中します。

周囲よりも成長が遅いという心配を乳幼児健康診査で行い、そこから聴力のチェックを勧められて難聴がわかるというパターンが大多数です。ただ、あくまで新生児聴覚スクリーニングを実施していなかったか、後発する難聴が存在するケースが、このような経過をたどることとなります。

難聴の程度によってはもっと後になって気づくことも考えられます。発音が歪んでいたりといった言葉の成長の質の問題から、難聴を疑って検査を実施すると、聞こえにくい状態が存在したということも珍しくありません。

こうした発見のタイミングが遅くなると、聞いて学習するという経路が健康なお耳の子供に比べると少なくなってしまいます。だからこそ、言葉の成長が遅いと感じられてしまうのです。難聴による言葉の遅れという二次的な問題が、発見が遅くなるほど大きくなっていく傾向があるのです。

適切な支援の道を作ることができる

難聴を早く見つけることは、その後の支援のコーディネートにも繋がります。

精密検査が実施できる施設は、日本耳鼻咽喉科学会のホームページを参考にすることで把握できますので、そこに相談して難聴が見つかったということは、今後の相談も含めて面倒を見てくれるはずです。



補聴器や人工内耳といった、聞こえを補助するものを装用する場合もあるでしょうし、周囲の配慮によって困り感を小さくすることもできます。必要に応じて言語聴覚士の指導を受け、言葉の遅れをできるだけ生じさせないようにすることも可能です。

それが、新生児聴覚スクリーニングから連続的に子供と保護者を支える地域ネットワークにあると、たとえ難聴が見つかったとしても、しっかり子供の成長が感じられる育児をすることができます。

新生児聴覚スクリーニング実施の産婦人科を探すべき

新生児聴覚スクリーニングの実施は、残念ながら全ての産婦人科で行われているわけではありません。

地域差が大きく、生まれた全ての子供に検査を実施している自治体もあれば、任意で検査を行っているところ、ハイリスクな子供にだけ実施しているところなど、そのスタイルは多様です。

子供のためを思って考えるのであれば、健やかであることを早期に知る新生児聴覚スクリーニングは重要です。

先天的な難聴は1000人に1~2と言われる確率ですから、先天的に生じるほかの病気や障害と比べても、決して少ないものではありません。これから子供を産む保護者には、是非とも新生児聴覚スクリーニングの必要性を知って欲しいです。