言葉が出ない子供をお持ちの保護者にとって、「どうすれば周りの子供のように、巧みに言葉を使ったコミュニケーションを取るのだろう」と不安に思うはず。
「様子を見ましょう」では済まされない保護者の不安を解消するためにも、年齢ごとにチェック方法と保護者がすべきことを言語聴覚士が提案します。
「0歳~3歳」の一般的な言葉の成長・発達の目安
言葉が出ないと感じる子供の保護者が、必ずしも正しい言葉の成長を把握しているわけではありません。「本当に遅いのか?」を知ることも、これからの成長を考えるきっかけになります。
言葉を話し始めるのは大よそ1歳ですが、その前から元になるものが出ているため、0歳代から子供の言葉に関するステップが重ねられているかを確認することも大切です。
では、生まれてから言葉を話し始める成長を、1歳前後を境にして追っていきましょう。
意味のある言葉を話す前の成長・発達の目安(1歳まで)
子供を育てている保護者にとって、「0歳から言葉が出るの?」と思うかもしれませんが、初語といって言葉を話し始める時期は大よそ1歳前後です。
でも、その準備は既に0歳代から始まっていることをご存知でしょうか?
ですから、意味のある言葉を話す前の成長にも目を向けて、話し始めるまでのプロセスを歩んでいるかを確認するべきなのです。
0歳児でチェックすべき成長としては、
- 盛んに口を動かし、声を出しているか?
- 保護者の声かけに反応しているか?
という、表出と理解の2つの側面からチェックを行うと良いでしょう。
どんな子供でも話し始める前に準備を行っています。口を動かしたり意識して音を出す、いわゆる「喃語」というのが生後4か月くらいから生じます。
月齢が進むにつれて出せる言葉のバリエーションが増えてきますから、何となく「マンマ」と聞こえるような発声が生後10か月を過ぎる頃に出てくる場面に出会うでしょう。
また、保護者の声かけに反応を示しているかも大切なポイントです。生まれながらに聞こえに障害がある場合には、そのままでは言葉の発達が遅れます。
最近では出産後すぐに子供の聞こえを評価する、「新生児聴覚スクリーニング」という検査を産婦人科で行っていることもあるため、生まれながらに聞こえにくさが生じているか否かは、そこで評価も可能です。「聞こえは大丈夫?」という疑いは、その検査がパスしているかも重要な判断に繋がります。
子供が声を出すことで保護者が反応し、そこからコミュニケーションが開始されるのは、会話の基礎を培います。
- 子供が声を出す
- 保護者がそれに気付いて言葉をかける
- 視線を合わせて微笑む
こうした一連のやり取りは、会話のキャッチボールへと発展します。
有意味な言葉を話し始める頃からの成長・発達の目安(1歳以降)
子供が1歳前後になると、お待ちかねの初語が出現する時期に差し掛かります。
有意味な言葉は子供が発しやすい「ママ」や「マンマ(ご飯)」、「ンマ(美味しい)」などが出るのが一般的。舌の動きはまだまだ未熟なので、口の開閉で発しやすいものが、「初めての言葉」として聞かれるはずです。
その後は生活に即した言葉がどんどん増えていきます。
「取って」、「ちょうだい」といった要求を示す言葉や、「ワンワン」、「アオー(ガオーというライオンの鳴き声)」のような名称に関連するもの、「ハイ」といった物の受け渡しの時に使用する言葉ができるなど、日常的なコミュニケーションの中で使える実用的な言葉が出てくるはずです。
その後はどんどん言葉のレパートリーが増え、ついには「言葉を繋げる」という方法に行き着きます。
連鎖表現といって、「ママ、取って」「パパ、いたー」など、複雑な表現を使いこなすようになります。そこに助詞がつくようになると、いよいよ文としての表現が出てきます。
子供の言葉が出ない・遅い・少ない場合にすべきこと
自分の子供と接していて、「言葉が出ない」という不安を抱えているようであれば、どれくらい出ていないのかを振り返ってみるべきです。
「出ない」といっても「全く出ていない」のと、「ほかの子に比べて少ない」という状態では異なります。
保護者の感覚として「言葉が出ない」という印象があると、育児が不安だらけになってしまいます。そうなると子供にとっても良い環境とは言えない関わり方となり、言葉を育みにくい環境ができてしまいます。
そうならないためにも、セルフチェックと相談先の把握はきちんと備えておきましょう。
発達の目安を母子健康手帳からチェック
もしも子供の言葉の発達が遅いと感じるのであれば、妊娠した時に自治体からもらった母子健康手帳で発達の目安をチェックしてみましょう。
そこには、どれくらいの月齢でどんな発達を遂げているかが説明されているはずです。病気を予防するための予防接種実施が一目でわかるような欄もありますし、発達の目安となるチェック項目がありますから、育児が初めてという方にも安心です。
それぞれの成長に合わせた関わり方の説明も行われているので、困った時には母子健康手帳から打開策を見つけるのも良いでしょう。
我が子の発達を保護者がチェックして、それでも「言葉が遅い」という不安が解消されないようであれば、乳幼児健康診査で相談する段階へと移行します。
乳幼児健康診査への相談は大切
子供の現状を把握しやすいタイミングとしては、乳幼児健康診査がおすすめです。
どんな自治体でも無料で受けられるようになっていますし、生後から発達を追うことができるため、現在どれくらいの成長を遂げているかの目安を知ることもできるでしょう。
日本では1歳半と3歳の子供に対し、乳幼児健康診査を実施することが国で義務付けられています。ところが、それだけでは保護者にとっても育児不安が生じやすく、病気のことや障害の有無を相談する場を設けるために、各自治体で細かく相談できる機会を設けているのです。
生後すぐに行われる1か月児の健康診査は小児科で行われることが多いのですが、その後の4か月、10カ月、1歳半、2歳、3歳といった年齢の子供は、保健センターで乳幼児健診が行われます。最近では就学前に発達の状態を把握し、病気や障害のチェックを行う5歳児に対する乳幼児健診も実施されています。
言語聴覚士による療育が子供の言語の発達を加速させる
1歳半の乳幼児健康診査で言葉が出ないという状態ですと、保護者は障害があるのではないかという不安が脳裏をよぎります。妊娠中に何らかのリスクがあった場合には、それが原因で発達が遅れているのかもしれないという気持ちが膨らみます。
でも、どんな子供でも療育を行って発達を加速させることができるため、言葉が出ないと悩んでいる場合には、早々に相談するのがおすすめです。
子供の発達を促す関わりを指導してくれる「言語聴覚士」を地域で探すと、そこからは関わり方も大きく変わるはずです。
言語聴覚士の介入から関わり方が変わる
1歳半でも言葉が出ないのであれば、2歳や3歳まで様子を見るのではなく、できるだけ専門的支援へ相談するのがおすすめです。障害のある・なしに関わらず、言語聴覚士は子供の発達を加速させてくれます。
保護者の関わり方も変わるようになると、言葉が遅いという症状が小さくなるかもしれません。病気や障害があって発達が遅れる子供も存在する一方、原因の特定には至らず、言語面の遅れが目立つというケースは少なくありません。
そこで、言語聴覚士がこれからの発達の目安を示してくれて、日常的な関わり方を保護者に指導することで、いつしか遅れを感じさせない状況へと成長する日を迎えることができるかもしれません。
毎日の育児を考えるだけで違いが出る
言語聴覚士が療育の介入を行ったとしても、日常の関わり方を変えなければ子供の成長は期待できません。特別な障害が無く言葉が出ないという場合には、保護者の関わり方が原因であることも存在します。
だからこそ、言葉が遅いという症状に合わせた細やかな育児支援が必要になるのです。
日常の大半を占める保護者との時間が濃密になれば、子供の成長はあっという間に驚くほどの結果を出してくれるはずです。病気や障害がどこかに見つかったとしても、子供の可能性は無限大です。
原因を解消することができれば発達を促すことはできるでしょうし、取り除けない原因があったとしても、どの子も成長を遂げる要素は抱えています。
保護者の気づきが言葉の発達と現状を知るチャンス
これまで子供の言葉が出ないことへの対応策を提案してきましたが、大切なのは保護者の気づきです。
子供の現状を把握して、発達が緩やかに思えるようなエピソードが続くようであれば、乳幼児健康診査をはじめとした成長を相談する機会を上手に活用しましょう。
法で決められている乳幼児健康診査は、
- 1歳半
- 3歳(3歳0か月で行う場合もあれば、3歳半で行う自治体もあります)
この二つがあるのですが、ほとんどの自治体で4カ月、10カ月、2歳、5歳などの乳幼児健康診査が設定されています。こうした機会を使って子供の健やかな成長を確認しつつ、今後の目安についてを示してもらいましょう。
母子健康手帳を使ってセルフチェックを行っても不安が解消されない場合には、言語聴覚士に相談するのも一つの方法です。それぞれに合わせた療育をコーディネートしてくれるため、障害のある・なしに関わらず、普段の関わり方を指導してもらえます。