子供が話し始める時期として一つの目安に考えられているのが1歳です。個人差はあるにしても、「言葉が出ない」という状況は、保護者はもちろん周囲も心配になってしまいます。

「もしかしたら発達障害なのかもしれない」という考えを持ってしまう方も少なくありません。でも、この時期に早々に発達障害と決めつけてしまうのはいけません。

この記事では、現役の言語聴覚士が、子供の言葉が遅れる原因を発達障害という視点から解説します。この時期では発達障害的要素は、わかるものとはっきりしないものがあるのです。

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1歳になっても言葉が遅い・出ない・話さないときにすべきこと

子供が1歳になっても言葉が出ないという状況は、保護者にとっては心配が大きくなるはずです。「もしかしたら発達障害なのかもしれない」という思いは、日々の関わりにも悪影響を及ぼします。でも、大丈夫と確信できるような言葉の成長が無ければ、いつまでも心配は募るばかり。

先天的な発達障害的な要素が無い場合には、1歳で診断をつけることは難しいのですが、何もせずに待つのではなく、成長を促すような働きかけを学ぶことで、子供の可能性を伸ばすことが、保護者の安心を膨らませられるでしょう。

一人で悩むのではなく、専門的な支援を味方につけることで、言葉の成長を日々の関わりから感じられる頻度が増えてくるでしょう。

保健センターへの相談が支援に繋がる

1歳になっても意味のある言葉を話さないという状況は、必ずしも言葉が遅いと判断することはできません。子供によって個人差が大きな時期ですし、未熟児や低体重で産まれた場合には1歳=話し始めると簡単に結びつけることはできません。

でも、保護者にとっては1歳になると話すという印象が育児書などからも学ぶはずなので、我が子の状態を照らし合わせたときに、「発達障害?」という疑いが描かれるのかもしれません。こうした不安を抱えたまま育児をするよりは、まずは地域の保健センターへ相談するのがおすすめです。

乳幼児健康診査が行われる保健センターは、育児不安を抱える母子を支える体制を整えています。言葉が遅いという心配も、遠慮なく相談することで、保健師や発達を専門的に扱っている心理士が対応してくれるでしょう。

この先どのように育てていくのが言葉の発達に良いかを教えてくれるのは、自宅に戻ってから頑張ってみようという気持ちにさせてくれます。

お母さんが一人で悩み、どうすれが良いかがわからないまま育児を行うよりも、「こうしてみたらどう?」という提案があるだけでも、手詰まりにならない育児が行えます。その突破口として、保健センターが利用できるのです。

言語聴覚士との出会いが発達の加速に繋がる

子供の言葉のスペシャリストである言語聴覚士は、継続的に育児の支援を行ってくれます。地域の保健センターに相談すると、小児専門の言語聴覚士が在籍している病院や療育施設を紹介してくれます。そこでは、目から鱗の育児方法が待っているのです。

発達障害かもしれないという不安は、子供の成長を目の当たりにすることで小さくなります。その後、発達障害と診断されることがあったとしても、子供の言葉は必ず伸びます。その礎を築いてくれるのが、言葉を専門的に扱っている言語聴覚士なのです。

今までの育児環境をリサーチして、次にどのような関わりを行うのが言葉の発達を促すかを応えてくれる頼りがいは、暗闇をひたすら歩いていたお母さんに、希望の光を注いでくれるでしょう。

1歳で話さないというのはそれなりに理由があります。どこまで発達しているのかを見極めて、日々の生活で小さな階段を上ることができるよう、育児支援を行ってくれるでしょう。

子供が1歳では発達障害の判断は難しい

発達障害の診断は、子供が1歳でははっきりと確定させるのは非常に難しいです。

生まれながらに異常が見つかっているのであれば診断は可能ですが、それ以外のケースは言葉を話さないからといって、「発達障害です」という判断をするのは信じてはいけません。

むやみに診断を下すところに相談をしても、何も解決はしないはず。それよりも、1歳という月齢の子供は個人差が大きく、いくつかの言葉を巧みに使う子もいれば、意味のある言葉を表出するに至らない状態でも不思議ではありません。大切なのはやり取りを行っているときの子供との関係なのです。

1歳では確定的ではない

発達障害には、主に次のものがあります。

  • 広汎性発達障害(PDD)(自閉スペクトラム症(ASD)含む)
  • 注意欠如多動症(ADHD)
  • 学習障害(LD)

1歳になって言葉を話さないから発達障害であるという判断はできません。そこまで早くは鑑別することはできないのです。1歳半健診で発達の疑いをピックアップされ、早くても2歳くらいで診断を受けるのが一般的。学習障害のように、もっと年齢を重ねなければ判断できないものもあるのです。

「発達障害かもしれない」と軽々しく言ってしまう医師や療育に携わるスタッフほど、信じられないと見なすべき。

言葉を話さないというだけでは発達障害であるかはわかりませんし、この頃の子供の発達は日々の生活から変化する時期です。1歳を境に発達障害の有無を判断するのではなく、もっと時間をかけて見ていかなければ、正しい判断はできません。

今後の成長を見守ることが大切

保護者にとっては「早く話してほしい」と思うかもしれませんが、子供なりの成長が無ければ話し言葉を操作するには至りません。きちんと話すまでの準備を整えているかを確認しつつ、今後の成長を見守るべきではないでしょうか。

子供と言葉を交わしてやり取りをしたいのは、どんな保護者でも抱くもの。それが早ければ嬉しいという感じがあるかもしれませんが、子供はゆっくりと言葉を貯めているのかもしれません。「わかる言葉」が増えてこなければ、当然ながら「話せる言葉」は出てきません。この順序が覆ることは、どんな子供でもありえないことなのです。

子供は保護者が思っている以上に急速に成長するものです。昨日までできなかったことが知らぬ間にできてしまうという、大人にはない奇跡のような成長の連続が楽しめる時期です。心配ばかりで毎日を辛いと感じるよりも、希望を抱いて子供の成長を見守るくらいが良い育児へと繋がります。

1歳児の言葉の発達を促す日常的な関わりのコツ・教え方・トレーニング

言葉の発達を促すためには、1歳前後の子供に合わせた言葉かけが重要です。いくら言葉を話してほしいからといって、教え込んで解決するものではありません。

日常のやり取りを充実させ、子供に「言葉っていいな」と思わせることができなければ、いつまでも「ママ」とは言ってくれません。思わず「ママ」と言いたくなるようなシチュエーションがあって初めて、「言葉を話す」ことに必要性を感じてくれます。

言葉の発達を促したいのであれば、理解から伸ばすことに力を注ぎましょう。簡単な言葉かけに子供が理解し、何らかの反応を示してくれるかを確認することが大切です。言葉を自然と学ぶためのやり取りこそ、子供が変わるきっかけを作ります。

「わかる言葉」を増やす意図的な関わり

子供の言葉を育むためには、「わかる言葉」を育てることがおすすめです。

そのためにも、意図的に関わることを実践してみましょう。いくつかの言葉に的を絞って関わってみると、それを理解しているかを見ることができるでしょう。

・指さしを加えた「見て」の声かけ

子供の言葉の発達には、指さしも重要な成長です。保護者は抱っこをしながら、子供の注意を引きましょう。指さしで見てほしいものを指し、一緒「見てぇ~」と声かけをして下さい。共同注視といって、同じものを一緒に注目することも大切です。

・「取って」のお願いが聞けると良い

小さなお願いを叶える「物を取る」という作業。子供を細かく褒めてあげられるお手伝いに繋がります。

指さしを行って、「あれ取って~」と言った際、子供が手を伸ばしてくれるようになったのであれば、「手を伸ばす」=「取る」というイメージがついているかもしれません。

これは、子供が「〇〇が欲しい」と思ったときに何気なく行っている動作で、周囲はそれを叶えてあげるために「取ってあげる」ということをしているはず。

・「どうぞ」のやり取り

物の受け渡しを行うのは、コミュニケーションの基本となります。子供が何かを欲して手を伸ばしたときに保護者がその物を「取ってあげる」という光景はよくあるはず。

その後に、「どうぞ~」と言って子供に渡してあげることは日常的にたくさんチャンスがあるでしょう。

・人の呼び方

誰かに何かを頼むときに、その相手が離れていることがあるはずです。そんな時に声を出してお願いをすることで、離れていても自分の望みを叶えてくれるという体験を重ねましょう。

「パパ~」と呼んだ時に自分の元に来てくれて、「だっこしてくれる」という楽しいことが満たされるようになると、「パパ」と言う➡「パパが来てくれてだっこしてくれる」という子供にとっては嬉しい体験が積めるようになります。

パパの育児意欲を引き出すという意味でも使える体験です。

・「美味しい」の共有

毎日の食事で体験できる「美味しい」という感覚。

子供がご飯を口に入れたときに、保護者が「美味しいねぇ」と笑顔で子供に話しかけてみましょう。頬に手を当てながら表現してあげると、言葉だけでなく身振りからも表現を学ぶことができます。

・「ない」の体験

子供が言葉を習得するためには、インパクトを与えることが必要です。物がないという体験を意図して設定してみましょう。

好きなお菓子や飲み物を食べたり飲んだりするように誘ってみてください。手軽に行えるのは「牛乳」です。子供に牛乳を飲むように誘い、椅子に座らせて待っていてもらいましょう。

牛乳パックからコップに注ぐ動作を普段から見せていると、牛乳パックから牛乳が出てくるというのは当たり前のルールになるはず。それを、空の牛乳パックを使って崩してみましょう。

コップに注ごうとしても、一向に牛乳が出てこない。「牛乳パックを覗くと入っていない」という体験が、「ない」という言葉を引き出します。外出するときに靴がないという体験でも良いでしょう。

日々の言葉かけから子供が変わる

子供の言葉は日々の関わりから育むことができます。保護者が意図的に関わることができると、それだけでも子供が成長します。専門家の療育を受けることも大切に思うでしょうが、もっと大切なのが日々の関わりです。

保護者が育児の中で言葉を育むコツがわかると、わかり合える時間が多くなります。話し言葉が出なくても、こちらの言っていることがわかっているという体験が色濃くなり、やがては子供が伝えたい表現が「話し言葉」となって出てくる日が来るはずです。

子供が変われば保護者の意識も変化する

子供の言葉が出ないのは、発達障害ではないかと思っている不安は、子供自身の成長が確認できることで軽減されます。そのためにも、意図的に関わって言葉を育むことが必要です。

育児が初めてという保護者にとっては、どう関わればよいかわからないと悩む方も多いはず。保健センターに相談したり、言語聴覚士が所属している病院や療育施設に相談することで、関わりのコツが学べます。

でも、「わかる言葉」を育むやり取りは毎日の育児で培うものです。

1歳前後では発達障害であるという判断をするのは難しいため、その後の成長を見守りつつ、困り感が解消されないときには発達の診断を受けることになります。1歳半健診までは「様子を見ましょう」と言われることがあるかもしれないため、まずは家庭でできることを実践し、子供の成長を見守ってください。

子供の成長は個人差が大きいため、言葉を話してくれないという状況があっても、まだまだ成長を促すタイミングが訪れます。そのチャンスでグンと伸ばせるかによって、話し言葉の習得時期が変化するでしょう。