3歳は言葉をたくさん覚え、日常で使う時期に差し掛かります。そのときに言葉が出にくい「どもる」という状態になる場合があります。
突然言葉が詰まったり、言葉を伸ばすように話すことが増えてくると、保護者はどうすれば良いだろうという心配が膨らみます。
ここでは、言葉が「どもる」という吃音の状態を呈している子供の正しい対処法を言語聴覚士が紹介します。
3歳児の言葉が突然ひどく「どもる」原因
「どもる」という状態を抱える子供は20人に1人くらいの割合のため、実は身近な状態であることがわかるはず。
3歳で言葉がどもると感じることが多いのは、子供自身の言葉の発達が関係しています。
今までは単語単位の簡単な返答ばかりだったのが、文としてのお話ができるような時期になり、長く話すということが日常的にみられるようになるはずです。
でも、まだ所詮は3歳なのです。
上手に話すスキルが磨かれていないので、的を得ていない説明が多かったり、いつまでも長々と伝えようとするなど、大人にとっては伝わりにくいと感じられることも多い時期。その一つの様子として、どもるという状況が感じられるはずです。
どもることを正しくは「吃音」と表現するのですが、この状態は言葉の流暢さに影響していることを指します。
- 「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくね」といった「連発」
- 「ぼーーーーーくね」といった「伸発」
- 「ぼっ・・(しばらく沈黙)ぼくね」といった「難発」
このような症状が出ているときには「どもりがある」という疑いが持たれます。
言葉だけでなく体にも影響していることもあり、話すときに足をバタバタ動かしたり、首を縦に振ったりといった「随伴症状」というものが出現していることもあります。自分の体で話すためのリズムを取っているように見えるのが特徴です。
3歳で言葉がどもることが多いのには理由があります。また、保護者が心配していることは、実はどもることには関係していないこともあるので、正しい知識を持って接することで、育児不安を大きくしないように気を付けましょう。
言葉の成長が著しいことが関係する
3歳という年齢は言葉の成長が加速する時期です。
できることも増えて、どんどん日常の中で新たな言葉に触れる機会があります。言葉の数を表す語彙数も爆発的に増えて、保護者にとってはみるみる成長していく姿に喜びを感じるのではないでしょうか。
その一方で、「最近言葉を話すのが詰まっている気がする」といったどもりの症状が目に付くことがあります。それが一度や二度ではなく、どんどん日常会話の中で見られるようになると、「何かおかしなところがあるのでは?」という心配が膨らみます。
言葉が滑らかに出てこない流暢さが失われてしまうと、会話のテンポがズレたような感じがするはずです。
まだ言葉の操作をするにも慣れていない時期なので、「考えてまとめて話す」というスキルは磨かれていません。だからこそ、どもる状態が目立って見えてしまうのです。
言葉の成長だけでなく、会話のスキルがアップすると、それだけでもどもりが少なく感じられるでしょう。複雑な操作を始めようという3歳前後は、どもりはじめの時期としても心配されやすいのです。
家庭環境が悪い・ストレスからではない
子供のどもりが出たのは「育児の仕方が悪かったのでは?」と心配される保護者も多いのですが、実際には関係ありません。
下の子が産まれたタイミングでどもるようになったので、「愛情不足が原因では?」と考えてしまうこともあるようですが、これも関係ないということを知るべきです。
どもる原因は脳機能が関係しており、滑らかに話すことが阻害される状態が起こります。
ただし、まだまだ色々な研究を行っている段階なので、脳のどこが影響して吃音の症状が出るのか、予防するための治療法はないのかといったところまでははっきりしていません。
心理的な要因がどもる状況を起こしやすくしているということはわかっています。
でも、これには個人差があるので、緊張すると出やすいという子供もいれば、家庭ではどもりが出ているけれど幼稚園や保育園では気づかれていないということもあります。
このように、家庭環境がどもる症状の原因であるということは言えません。それでも、日々の関わりの中で間違った対応を行っていると、どもりが酷くなっていくリスクは潜んでいます。
正しい対処法を学んで子供と接することで、現在抱えている言葉のどもりの悩みが小さくなります。
遺伝的な要因が関係するかもしれない
言葉がどもる状態は、遺伝的な要因も関係することがあります。
保護者やその親といった近親者に「吃音」を持つ人がいるという場合には、遺伝的要因でどもりが出ていることを疑います。
子供の言葉がどもるという相談を受ける際、家族の状況を伺っていくと、吃音という診断を受けたことが無かったとしても、会話の流暢性が怪しい人がイメージされることがあります。
ただ、全てが遺伝で決まるわけではありません。どもりやすい環境が重なって起こっていることもあるので、近しい方に吃音をお持ちの場合でも、それを責めることは間違いです。
3歳の言葉のどもりは治るの?
保護者は「子供の言葉がどもる状態は治るのだろうか?」という心配をお持ちでしょうが、70%くらいの子供が自然治癒するとされています。
ただし、どもりにとってマイナスな環境がないことや、家族歴がないという条件での数値ですから、どもることへのからかいがあったり、近親者でどもりがあるという場合には自然治癒の確率は低くなります。
「どもりが治る」という概念をどのように設定するかによっても「治る」という解釈は違うのですが、一般的には3分の1くらいが症状が全く見られなくなる状態になり、もう3分の1が日常生活には支障がでないくらいの症状へと軽快します。
ここまでを「治る」というまとまりにするのであれば、子供のどもりは治る可能性が高いと感じられるはずです。
吃音やどもりなど、どもる状態についての情報収集を行っていくと、「吃音(どもり)は治らない」という情報を見かけることがあり、それを見つけてショックを受ける保護者がいるのですが、正しい知識を身に着けておくことが大切です。
言葉の成長により治った・自然治癒する確率は高い
言葉がどもる状態は2~4歳くらいに出現するため、3歳児健診で保護者が気になって相談をするということもあり、そこから言語聴覚士のいる施設に繋がって関わりの指導を受けて軽快するというケースが地域によっては確立されています。
でも、保護者が正しい知識で関わっていて、子供を取り巻く環境の調整が行えているのであれば、特別な支援を受けることなく「どもる状態」が自然治癒する可能性があります。
どもりが酷くなるリスクが無い状態であれば、70%くらいの子供は自然治癒するとされているほど、言葉の成長によってお話のレパートリーが広がり、話すスキルも磨かれていくため、周囲はどもりに気づかなくなるということが多くなります。
逆に、環境が子供にとってマイナスに働くようなものであれば、どもる状態はどんどん進行し、「うまく話せない」という気持ちが大きくなっていきます。
癇癪が酷くなったり、人とのコミュニケーションを避けてしまうことも出てしまいます。そうなる前に手を打つことが必要です。
「どもりは治らない」は間違った認識
3歳の子供がどもる状態が出現すると、保護者はインターネットで色々な情報を探るのが一般的。そこで目にするのが、「どもりは治らない」という情報ではないでしょうか。
大人になってもどもる状態が残る方も確かにいるのですが、全ての子供がそのままの状態で推移するわけではありません。
どもる状態にも波があり、強く出る場合もあれば全く出ないということもあります。一喜一憂するのではなく、子供の成長を見守りながら、どもる状態が出ていてもコミュニケーションを取ることを楽しく感じてもらう接し方が必要です。
通信販売などでも「吃音が治る!」といった商材が販売されていることもありますが、あくまで関わりのノウハウを学んでもらうためのものです。
どもる状態が治る特効薬はありませんし、日常的な関わりの中で「うまく伝わった」という体験を積み重ねることが何よりも大切だということを保護者は学ぶべきです。
3歳で言葉がどもるときの対処法
3歳の子供が話すときにどもるようであれば、周囲は正しい対処法を行って、話しやすい環境を整えてあげるべきです。
どもっても好きなことが話せるという環境ができると、それだけでも子供が抱える心理的負担を軽減させられます。
「言いたいけれどうまく出てこない」という自覚が少ない時期ではありますが、意思が伝えられなくて機嫌が悪くなったり、癇癪が強くなって困ってしまうという事態に陥る家庭も少なくありません。
そういった状況は親子関係にも影響するため、早めに対処法を学んで良好な関係を築くようにするべきです。
育児にお困りの場合には、言語聴覚士がいる施設を探してどもりの対処法を学びましょう。地域の保健センターに相談すると、どこに行けば良いかを教えてくれるでしょう。
子供の言葉に関するお悩みは、「様子を見る」よりも相談して解決に向かった関わりを知る方が良いでしょう。
言語聴覚士による関わり調整が有効
言葉のどもる状態が続いているようであれば、言語聴覚士が介入して関わりの調整を行うべきです。育児環境を考えるだけでも子供にとってはプラスとなることがたくさんあります。
3歳の場合は保育園や幼稚園に通っていることも考えられます。保育先での対応をコンサルティングしてもらうことで、子供の困り感を軽減することができるでしょう。
関わり調整は色々な角度から行われますが、会話のルールを学んでもらうことも大切です。
保護者が気を付けるべきルールは以下の通りです。
・不必要な声かけをしない
「ゆっくり話していいよ」「もう一回言ってみようか」といった促しはしないでください。子供にとってはマイナスの働きかけにしかなりません。意識させることで緊張してしまい、さらにどもりが酷くなるといったことが起こります。
「待っているからね」という声掛けもいりません。自然と言葉が出てくるまで不安な表情を浮かべることなく待つ姿勢こそ、子供がリラックスできます。
・言葉の先取りをしない
子供は伝えたくてお話をしているはず。それを、どもるから話しの内容を予測して先取りするのは厳禁です。子供にとっては「言いたかったのに」という気持ちが募るばかり。「うまく伝えられなかった」という意識を持ってしまうこともあります。
どもる状態が多くなるほど、保護者にとっては「苦しそう」という気持ちが膨らみます。でも、先取りをしてしまうのは子供にデメリットとなることを知りましょう。
・会話のレベルを下げてやり取りを行う
3歳の子供は言葉の発達が著しい時期なので、つい質問することが多くなります。そのときに質問の難易度が高くなると、説明するのが大変になってしまいます。
子供に意思を表示してもらう場合には、選択肢を与えるようなやり取りをするべきです。
- 悪い例 ➡ 「今日のお昼ご飯何食べる?」(応える範囲が広く、大変)
- 良い例 ➡ 「今日のお昼、ラーメンとそば、どっち食べる?」→(選択肢があり応えやすい)
このような会話の調節ができるようになるだけでも、やり取りがしやすくなります。
ただし、子供によっては「あ・い・う・え・お」で始まる言葉は言いにくいということもあるので、どもる傾向が見えている場合には詰まりにくい言葉の選択肢を与えてあげるコツも知っておくと便利です。
他にも、どもる状態に有効な方法はたくさんありますが、家庭の関わりの中で気を付けつつ、子供が関わる保育園や幼稚園でも関わりの調整ができると良いでしょう。
家庭とは違った気を付けるべきポイントも存在しますので、それを保育する専門職の方に知ってもらうだけでもやり取りのしやすさを作れます。
保育園や幼稚園で必要な対応
- 家庭で気を付けるべき部分を知ってもらう
- 真似するような子供がいたらそれを止める
- からかいがあったときにはきちんと叱って「いけないこと」と認識させる
- 日直などは複数で声を揃えて言わせるとどもらない
- 発表会などはどのようにして取り組ませるかを相談する
このような配慮があるだけでも、子供のどもりには大きな効果があります。子供に関わる人たちが協力することができると、コミュニケーションが嫌になることはありません。
3歳頃にどもりが出てもやり取りを楽しむ育児スタイルが必要
3歳の子供にどもりがあるのは、周囲からすると「苦しそう」「何とかしてあげたい」という意識が出るはずです。
まだ吃音を自覚していない子供がほとんどなのですが、早くに改善させたいという意識は強く持つはずです。でも、関わり次第で症状が酷くなることもあり、人とのやり取りが嫌になってしまうという体験に至ることも珍しくありません。
だからこそ、育児スタイルにメスを入れて、やり取りが楽しいと思えるような日常を送る環境づくりをしなければならないのです。
どもりがあっても巧みにやり取りを行い、人との関わりが楽しくて、自分の考えていることを表現することに喜びを感じられるのが、育児としては大切な心掛けになります。
言語聴覚士への相談により、親子の関係を演出する働きかけが行われると、今までの悩みを軽減できるのは確実です。保護者が悩みを抱えているのであれば、地域の保健センターや言語聴覚士がいる施設に相談するのが良いでしょう。
3歳の子供がどもる割合は、決して低い確率のものではありません。20人に1人は吃音があるとなれば、クラスに1人はお話の滑らかさが欠けているかもしれないという見立てになります。
周囲がコミュニケーションを取る上で、伝えたいことが伝えられる準備ができていると、どもりがあってもやり取りに支障はきたしません。
育児の方針を伺うだけでも子供のどもりにプラスの効果が与えられるやり取りが意識できます。素人ながらに闇雲に関わるよりも、正しい知識で対処できるのが良いでしょう。
インターネットで子供の吃音のことを調べるとネガティブな情報を見かけることもありますが、決してそうではないことを自らの育児で感じるべきです。現在の育児スタイルに足りないものを、専門家からアドバイスしてもらうのが良いでしょう。