子供が意味のある言葉を話し始めるのは1歳くらいという認識が、どんな保護者にもあるのではないでしょうか。でも、1歳を過ぎても言葉を話さないという状況は、何か問題があるのだろうかと不安に思ってしまうはず。
「ママ」と言わないことに焦りを感じる場合には、難聴の要素を疑ってみてください。耳の聞こえにくさが原因で、言葉が出ない状況を作っているかもしれません。
ここでは、難聴があると言葉の発達が遅い理由と、難聴があったときに言語聴覚士支援する言葉の教え方について紹介します。
言葉を話し始める一般的な年齢は1歳前後!「言える言葉」の前に「わかる言葉」を考えよう
赤ちゃんは生まれて数か月で喃語を経発するようになり、徐々に言葉を話す準備を整えます。「言える言葉」の前に「わかる言葉」が育たなければ、話し始めることはできません。その年齢は一般的には1歳前後です。
環境によっては早くも遅くもなる可能性がある言葉の発達。それでも、1歳を超えても言葉が出ない場合には、「わかる言葉」がどれくらいあるかを考えてみましょう。
保護者から伝わるものが無いと感じるようであれば、子供の状態をチェックする時期として考えましょう。
1歳くらいには意味のある言葉を話すことが多い
赤ちゃんは1歳くらいには意味のある言葉を話すことが多いのが一般的。でも、それが遅いと感じるようであれば、何らかの相談をする時期かもしれません。
子供の成長について相談できるところとしては、
- かかりつけの小児科
- 地域の保健センター
- 子育て支援事業
- 言語聴覚士が対応してくれる小児発達関連の施設
- 電話やインターネットを使った育児相談サービス
このようなものから言葉についての相談が行えます。
でも、難聴が背景に隠れている場合には、こうしたサービスへ相談しても、子供の言葉の成長を妨げている全貌が明らかにならないことがあります。だからこそ、「聞こえはどうか?」という疑念を抱き、耳鼻咽喉科を受診して聴力を調べなければなりません。
耳鼻咽喉科受診によって難聴の有無が確認できる!言葉が出ない・通じない・理解していないと感じる場合はまずは家庭で反応をチェック
程度は違えど、「聞こえにくさ」があるときには言葉の発達が遅くなる可能性が高まります。そのままでは誤った学習の積み重ねで、親子のコミュニケーションまでもうまくいかないという思いを抱いてしまいます。
「赤ちゃんだから聴力は調べられないのでは?」と思うかもしれませんが、生後数日から聞こえの反応を調べる検査もありますし、その後の成長に合わせた聴力評価も行えます。
1歳くらいでは、子供の音を探索する反応を使って聴力を把握する検査も行えますし、眠らせた状態で大よその聴力を調べる検査も行えます。音に対して「ハイ」という返事ができない年齢でも、耳鼻咽喉科で検査を行うことができます。
言葉が出ないという悩みや、こちらの言っていることが通じていない、理解していないと感じる部分があるときには、聞こえのチェックは重要なポイントです。耳鼻咽喉科を受診する前に、家庭で簡易的に子供の反応を見ることも大切です。
- ■テレビのCMが切り替わったときに画面を見る
- →画面を見ている状態だと、映像が変化したことに気づくため、子供がテレビの画面を見ることができない位置での反応を見てみましょう。
- ■家族が外出先から帰ってきたときに気づくことができる
- →お父さんが玄関のドアを開ける音を出したときに、リビングで子供が玄関の方に目を向けることが多いかを見てみましょう。
- ■保護者の声かけに合わせて真似をしようと声を出す
- →正確ではなくても良いので、音マネが出てくるようになっているかを確認しましょう。
- ■身振りを使わずに言葉だけの話しかけで意味が通るものがある
- →日常的に身振りを使っていることが多い「おいで!」や「バイバイ」などで、話しかけると子供がアクションするかを見てみましょう。身振りを使ってしまうと視覚で処理をしてしまうので、聴覚を使った反応はわかりません。
こうしたチェックは母子健康手帳のそれぞれの月例のところに同じような確認事項が掲載されているはずです。赤ちゃんの月例に沿って確認し、チェックがつかない部分がいくつも見られる場合には、一度耳鼻咽喉科を受診するのがおすすめです。
難聴が原因で言葉が出ない・遅くなる理由
難聴があると言葉が出ないのはどうしてだろうと思うかもしれませんが、子供が言葉を習得するスタイルが関係しています。自然に言葉を学び、それを操作するようになる子供の力は素晴らしいのですが、その大半の学習を聴覚から積み重ねているのをご存知ですか?
ということは、難聴があって子供が聞こえにくい状態だと、聞いて学ぶという経路が使えないか、使えても情報量が少なく経験不足に陥ってしまいます。ここでは、聞くことで学ぶ子供の言葉が育つプロセスを説明します。
言葉の習得は耳から行われることが多い
赤ちゃんが成長して言葉を話すようになるのは1歳前後が一般的。でも、わずか1年の間に何が起こっているのかを知るだけでも、これからの育児を意識付けできるのではないでしょうか。
難聴があると言葉が遅いという状況は、子供が言葉を習得するプロセスが関係しています。赤ちゃんが意味のある言葉を話し、子供なりに言葉の成長を遂げるのは、普段から周囲の言葉を聞いて勉強しているからなのです。
英語学習も耳から学ぶというスタイルが注目を集めていますが、言葉は聞いて理解し、自分で使って結びつきを強くするもの。だからこそ、「聞く」という行為は言葉の学習にとって重要なウエイトを占めているのです。
日本で産まれた赤ちゃんが、自然と日本語を習得するというのも、聞いて学ぶことが関係しています。その経路に何らかの問題があると、情報が不確かに伝わって正しい学習ができません。
どんなスキルでも経験を積み重ねることで上達するはず。言葉を話すということも同じです。ただ、話す前に理解するということが積み重ねられなければ、実用的なスキルは上達しません。言葉を話すためにも、「わかる言葉」を増やすことが大切です。それを聞くことを通して効率良く経験しているのでしょう。
絶対的な言葉の学習機会が少なくなってしまう
難聴があるということは、程度の違いがあっても正常な聴力に比べると聞こえにくい状況が生じています。言葉の習得は耳で聞くことが大切なのはこれまで説明してきましたが、その機会が少なくなってしまうということは、絶対的な言葉の学習機会を狭めてしまいます。
聞こえにくさを放置すると、保護者の言葉に耳を傾けるということができません。いつまでも「ママ」と言わないのは、そもそも「ママ」という言葉が聞けていないのかもしれません。聴力の状態によっては、「ママ」が「アア」にしか聞こえていないことも考えられます。「パパ」も「ママ」も同じように聞こえているかもしれません。
こうした不確かな学習では、当然ながら言葉の発達は遅れてしまいます。それは、言葉の習得に聴覚が関わっているからなのです。
子供が学ぶ質を高めるためには、難聴の問題を解消するための策を考えなければなりません。そこで力を貸してくれるのが、言葉の発達を支援する言語聴覚士なのです。
難聴があっても言葉の習得はできる!1歳児と意思疎通するための教え方・トレーニングの方法
難聴があっても言葉の習得が全くできないのではなく、適切な方法で子供がわかりやすい角度から関わりを持つことで、いくらでもスピードアップを図れます。ですから、我が子に難聴があるからといって、一生話すことができないわけではありません。
ただし、言葉の習得を促すためには保護者がコツを覚えなければなりません。それを独学で習得するのは大変なので、言語聴覚士がいる耳鼻咽喉科や、子供の療育を積極的に行っているところでコツを学びましょう。
その前に、難聴の程度に合わせた聞こえにくさをカバーすることから考えなければなりません。
補聴によって聞こえにくさをカバーする
子供に難聴があるときには、補聴器や人工内耳といった聞こえにくさをカバーする方法で問題を小さくすることが有効です。難聴の程度によってどういった方法でカバーするかが分かれますので、まずは聴力を把握することから始めましょう。
子供の聴力を把握するには、精密な聴力検査が行える耳鼻咽喉科を受診しなければなりません。日本耳鼻咽喉科学会のホームページには、1歳の子供でも聴力が把握できる検査が実施できる施設が紹介されています。
アメリカでは1-3-6ルールといって、生後1ヶ月までに新生児聴覚スクリーニングという、赤ちゃんが音に反応するか否かの検査を実施して、3ヶ月までに精密聴力検査を実施。6ヶ月までには補聴器を装用するという流れが出来上がっています。日本でもこのような取り組みを各自治体が行っており、一昔前に比べると難聴が発見されるタイミングが少しずつ早くなっています。
1歳になっても言葉が出ないときには、まずは聞こえに問題が生じていないかをチェックすることは大切です。そこで難聴が見つかっても、補聴によって聞こえにくさがカバーできれば、聞いて学ぶという経路を使って言葉の発達を促すことは十分可能です。
視覚から言葉を入れて意思疎通を促す
子供に難聴があると、言葉が全く発達しないかというと、そうではありません。あくまで話し言葉が中心に遅れる可能性は高くなりますが、言葉の概念を学ばせてあげることは可能です。ですから、難聴があっても言葉を使った意思疎通は可能です。
赤ちゃんが成長すると、身振り手振りで意思を表現することがあるはずです。話し言葉ではなく、サインによる言葉といっても良いでしょう。こうしたアクションは、保護者の動きを見て勉強したり、偶然子供が行った行為を保護者がピックアップして欲求を満たしてあげたという経験から、意図して発するようになります。
難聴があっても目で見て学ぶ力が問題なければ、言葉の概念をサインで入れてあげることは可能です。
大好きなご飯を食べた時ににっこり笑って「美味しい」と頬を2回くらい掌でポンポンと叩くサインをしてみましょう。それを毎日の食事で繰り返していくだけでも、そのうち子供が真似をしてくれるかもしれません。
聞こえにくさがある分、ほかの感覚を使って刺激をキャッチする力に長けている子供も多いため、話さないけれど表現できるサインがいくつもある場合には、「わかる言葉」はきちんと育っています。
1歳になっても話さないといっても、視覚的な経路から言葉を育むことは可能です。サインは手話にこだわる必要はなく、ベビーサインや家族で創作したものでも構いません。大切なのは子供とやり取りをして、通じ合うことなのです。
そのコツを専門家から伺う時期は、1歳になって言葉が出ないと感じる頃でも早すぎることはありません。むしろ、保護者の言うことを理解していないと心配になっているようであれば、遠慮なく相談するのが良いでしょう。
聞くことは言葉の発達に重要な役割!1歳でも聞こえのチェックが必要
1歳だからといって聞こえの有無をチェックできるのかと保護者は思うかもしれませんが、家庭で行える方法から、耳鼻咽喉科で専門的に調べてもらうこともできます。
難聴の有無を生後間もなくして行われる新生児聴覚スクリーニングで調べていないのであれば、言葉が遅いという状況を放置せず、「聞こえはどうか」という視点を持ちましょう。
聞くことは言葉の発達に重要な役割を担っています。もしも難聴があってもきちんとした育児環境が整えば順調に言葉の発達を促すことも可能です。原因の有無を確認して、子供が抱える問題を小さくすることができるからこそ、1歳になっても言葉が出ないと心配なときには、聞こえのチェックを行ってみてはいかがでしょうか。
聞こえるとわかるだけでも保護者の言葉を聞いて学んでいるということがわかるでしょうし、難聴が見つかっても言語聴覚士による現在までの発達状況を確認してもらうことで、次になにをすると言葉の発達が促されるのかもわかるようになります。子育てに関する心配を、「聴覚」という視点から見ることも重要なのです。