離乳食を始めた赤ちゃんに、栄養たっぷりのハチミツをあげたいと考えるママも多いと思いますが、一方で、ハチミツのラベルには、1歳未満の赤ちゃんに与えないようにという注意書きがしてあります。
2017年4月にハチミツを摂取した生後6ヵ月の赤ちゃんが「乳児ボツリヌス症」を発症して亡くなりました。
この事故が起きたことで、赤ちゃんにハチミツを食べさせてはいけないことを再認識した人も多いのではないでしょうか。このような痛ましい事故を繰り返さないためにも、ハチミツの取り扱いには注意が必要です。
赤ちゃんはなぜ、ハチミツを摂取してはいけないのでしょうか。そして、赤ちゃんがハチミツを摂取することで発症することのある「乳児ボツリヌス症」とは一体どんな病気なのでしょうか。
ハチミツをあげてはいけない理由や、赤ちゃんにハチミツをあげてよい時期など、赤ちゃんに対するハチミツの取り扱いについて、確認していきましょう。
赤ちゃんはハチミツをいつから食べていい?
離乳食を始めると、なんとか赤ちゃんに離乳食をおいしく食べてもらうために、試行錯誤する日々が続きます。
特に離乳食初期は、まだ食べられる食材や使用できる調味料が限られているので、できるだけ体によく、赤ちゃんが好んで食べてくれるものを使用したいと考えます。栄養価が高く、甘味料として使用することができるハチミツは、体にいいだけでなく、赤ちゃんが好む味になりやすいので、積極的に使いたいところです。
しかし、ハチミツのラベル表示を確認すると、「1歳未満の乳児には与えないでください」といった内容の注意書きがしてあります。
なぜ1歳未満の赤ちゃんにハチミツを食べさせてはいけないのでしょうか。また、1歳になったらすぐに食べさせても問題ないのでしょうか。赤ちゃんに食べさせてはいけないとされる理由と、ハチミツを摂取しても問題ない時期についてみていきましょう。
赤ちゃんがハチミツを食べてはいけない理由
1歳未満の赤ちゃんがハチミツを摂取してはいけないとされる理由は、ハチミツに含まれていることがある「ボツリヌス菌」にあります。
ボツリヌス菌は、非常に毒素の強い細菌ですが、消化器官が発達していて、免疫力もある大人が摂取しても、中毒症状を引き起こすことはありません。一方で、まだ腸が短い赤ちゃんが、ボツリヌス菌を摂取してしまうと、腸まで到達してしまう可能性が高くなります。
また、赤ちゃんは消化器官が未発達で、体の抵抗力もまだ弱いので、体内でボツリヌス菌が増殖し始めると、その増殖を止めることができず、「乳児ボツリヌス症」という食中毒を発症する恐れがあります。乳児ボツリヌス症は、ひどい場合には死に至るケースもあるので注意が必要です。
乳児ボツリヌス症の原因となるボツリヌス菌については、次の章で詳しく説明していきます。
ボツリヌス菌とは
ボツリヌス菌の多くは、土の中や井戸水に存在しているのですが、土の栄養を吸収しながら育った花の蜜が元となっているハチミツには、土の中にあった土壌菌が含まれている可能性があります。
土壌菌のひとつであるボツリヌス菌は、食中毒を引き起こす菌の一種で、非常に強い毒性をもっています。普段は芽胞という卵のような状態になっていて、芽胞の状態では、摂取してもその毒性は現れません。しかし、芽胞が発芽して増殖を始めると、一気に毒素をまき散らし、中毒症状を引き起こしてしまいます。
毒性が強くても、加熱殺菌すれば食べても大丈夫なのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、ボツリヌス菌は、沸騰したお湯でも死滅させることができないくらい耐久性が強い菌です。加熱調理しても毒素は消滅しないので注意が必要です。
ハチミツは1歳を過ぎてから
ボツリヌス菌を含んでいる可能性のあるハチミツは、商品ラベルに表示してあるとおり、1歳未満の赤ちゃんにハチミツを与えてはいけません。1歳を過ぎてから与えるようにしましょう。
厚生労働省のホームページでも、赤ちゃんのお母さん・お父さんやお世話をする人に向けて、ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてからにするよう、注意喚起がなされています。
1歳を過ぎるまでは食べると危険とされる食品を、1歳を過ぎたらすぐに摂取してもいいのかどうか不安になる人もいるでしょう。
ボツリヌス菌を摂取することによって発症する乳児ボツリヌス症は、1歳を過ぎてから発症した事例がありません。乳児ボツリヌス症の発症年齢は、生後6ヵ月未満の赤ちゃんが90%以上を占めています。1歳を過ぎていれば、消化器官も発達し、腸内環境も整ってくるので、ボツリヌス菌に対抗することができる体になります。ハチミツを摂取しても問題ありません。
それでも不安な人は、1歳になったとたんに、無理に食べさせる必要がある食品ではありません。特に、赤ちゃんが他の食品アレルギーをもっている場合や、体の抵抗力が低い場合には、しばらく様子をみてから食べさせてもいいでしょう。
なお、初めて赤ちゃんにハチミツを食べさせるときには、離乳食で初めての食材を与えるときと同様に、赤ちゃんの体調がよい日を選びましょう。そして、異常が出たときに病院に行ける時間帯にすることをおすすめします。
赤ちゃんがハチミツを食べるとどうなる?乳児ボツリヌス症の症状とリスクとは
ボツリヌス菌は、すべてのハチミツに含まれているわけではありません。市販されているハチミツのうち、ボツリヌス菌が含まれているのは、5%程度と言われています。そのため、ハチミツを食べたすべての赤ちゃんが、ボツリヌス菌に感染するわけではありません。
感染しなければ、問題ありませんが、警戒しておかなければいけないのは、感染してしまったときのことです。1歳未満の赤ちゃんがハチミツを食べたことにより、ボツリヌス菌に感染してすると、次のような症状が現れます。
- 便秘が続く
- 哺乳力が低下し、授乳量が減る
- よだれが増える
- 筋力が低下し、脱力状態になる
- 泣き声が小さくなる
- 呼吸器系の麻痺(無呼吸)
それぞれの症状が起きる理由について、確認していきましょう。
消化機能の低下
ボツリヌス菌に感染すると、菌が腸に入り込んで増殖し、毒素を発生させます。そのため、消化器官の機能が低下し、しつこい便秘が数日間続きます。
それまで便通に特に問題のなかった赤ちゃんが、突然便秘が続くようになった場合には、数日前までさかのぼり、食べた物や飲んだ物にハチミツが含まれていなかったかを確認するようにしましょう。ハチミツを摂取した可能性がある場合には、すぐに病院を受診することをおすすめします。
神経麻痺の低下
乳児ボツリヌス症の症状には、消化器官の機能以外に、神経麻痺の低下があります。
神経が麻痺すると、顔面の筋力が弱り、哺乳がうまくできなくなったり、よだれの量が増えたりします。哺乳がうまくできなくなることで、体力も落ち、だんだんと元気もなくなっていきます。
顔面だけでなく、手足が動かなくなったり、首が持ち上がらなくなったりと、神経麻痺の影響は全身に及びます。体に力が入らず、脱力状態に陥ってしまいます。
呼吸器の神経が麻痺
神経麻痺が進行すると、呼吸器系の神経も麻痺にもつながります。呼吸器の神経が麻痺してしまうと、呼吸困難を引き起こし、重篤化すると無呼吸状態となり、最悪の場合、死に至るケースもあります。
乳児ボツリヌス症を発症した赤ちゃんが、命を落としてしまう確率は、1~3%と言われています。致命率は低いように感じるかもしれませんが、命を落とさないまでも、乳児ボツリヌス症を発症してしまうと、完治するまでに数ヵ月を要します。ハチミツの摂取には充分な注意が必要です。
誤って赤ちゃんがハチミツを摂取してしまうケース
ハチミツは栄養価も高く、万能調味料として、様々な食べ物に使われます。1歳未満の赤ちゃんに、ハチミツを与えてはいけないことを知っていても、誤って赤ちゃんがハチミツを口にしてしまうことがあります。
1歳未満の赤ちゃんがハチミツを摂取してしまいがちなケースを把握し、乳児ボツリヌス症発症のリスクを少しでも軽減しましょう。
離乳食に使う
生後5~6ヵ月になると、赤ちゃんの離乳食が始まります。赤ちゃんの離乳食のレパートリーを増やすために、インターネットでレシピを検索することも多いでしょう。離乳食の後期のメニューを検索していると、甘味料として砂糖ではなく、ハチミツを使ったレシピがヒットすることがあります。
ハチミツをあげてはいけないことを認識していても、離乳食に使っている人がいるという安心感から、離乳食に加えてしまうことがあります。ハチミツの甘みやとろみは離乳食には最適なものですが、1歳未満の赤ちゃんの離乳食には少量でも加えてはいけません。
離乳食は1歳を過ぎてからも続きます。ハチミツを使用している離乳食のレシピは、1歳を過ぎてからレパートリーに加えるようにしましょう。
ハチミツ入りのパンやお菓子
油断して与えてしまいがちなのが、材料にハチミツが使われているパンやお菓子です。
「ハチミツ○○」という名称であれば、ハチミツが入っていることを意識しやすいですが、少量しか使われていない場合、ハチミツが使用されていることを大々的に表示していないことも多く、赤ちゃんに食べさせてしまってから気付くこともあります。
市販のパンやお菓子などの甘みのあるものを赤ちゃんに与えるときは、パッケージ裏に記載されている原材料をチェックする習慣をつけましょう。ハチミツが入っているとは感じないほど少量であっても、「ハチミツ」の記載がある場合には、1歳未満の赤ちゃんには与えないでください。
料理の調味料として活用
煮物などを作る際、砂糖を摂取し過ぎないようにするために、ハチミツを使用することがありますが、これも注意が必要です。
大人や1歳を過ぎた子どもが食べるのには問題はありませんが、離乳食が進んでくると、赤ちゃんに大人が食べる料理を少しづつ取り分けて与えることがあります。甘めに味付けした煮物の野菜は、赤ちゃんが好むことも多く、野菜なら大丈夫だろうと少し口に入れてあげたくなるものです。
しかし、ハチミツに含まれるボツリヌス菌は、加熱調理しても死滅しません。大人のおかずを採り分ける際には、ハチミツが使われていないかどうか、確認してからにしましょう。離乳食期の1歳未満の赤ちゃんが家庭にいる場合には、思い切って、ハチミツを使った料理を作らないことも有効な対策です。
殺菌作用を利用して風邪予防
ハチミツには殺菌作用があります。大人でも、喉が痛いときに、お湯や紅茶に混ぜて飲むことで、炎症を軽減することができます。そのハチミツの殺菌効果を求めて、風邪をひき始めている赤ちゃんのミルクや白湯にハチミツを混ぜて飲ませたくなります。
しかし、1歳未満の赤ちゃんにハチミツ入りの飲み物を与えると、風邪は予防できても、風邪よりも症状の重い乳児ボツリヌス症を発症してしまう恐れがあります。
体調が悪く、食欲が減退している赤ちゃんに、プレーンヨーグルトをあげる際にも注意が必要です。甘みのないプレーンヨーグルトには、ハチミツがよく合いますが、1歳を過ぎるまでは、フルーツジュレや果物で甘みを足すようにしましょう。
赤ちゃんがハチミツを食べてしまった!摂取してしまったときの対処法
いくら注意していても、1歳未満の赤ちゃんがハチミツを摂取してしまうことがあります。赤ちゃんが誤ってハチミツを摂取してしまった場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。
お医者さんに相談しましょう
ハチミツが入ったものを赤ちゃんが口にしてしまったことにすぐに気が付いた場合は、次のような対処法をとりましょう。
- ハチミツが付いている可能性のある口や手をキレイに拭く
- ママの手もキレイにする
- 母乳やミルクを飲ませる(ハチミツを少しでも薄める)
家庭ですぐにできる処置をおこなったら、病院を受診してください。
ハチミツを摂取しても、ボツリヌス菌に感染しないこともありますが、ボツリヌス菌は、摂取してから乳児ボツリヌス症を発症するまでに数日間の潜伏期間があります。症状がすぐに現れないため、専門家の指示を仰いでおくことが重要です。
ボツリヌス菌の潜伏期間
ボツリヌス菌は、赤ちゃんがハチミツを摂取してから、乳児ボツリヌス症を発症するまで、3日~30日間の潜伏期間があります。潜伏期間が長いので、前述したような症状が出ても、ハチミツを摂取したことが原因であるとは、なかなか結び付かないことがあります。
乳児ボツリヌス症は、自然治癒する病気ではありません。そのままにしておくと、悪化の一途をたどってしまいます。
ハチミツを直接食べさせていなくても、他の食材に混ざった状態で摂取している可能性があります。1歳未満の赤ちゃんにしつこい便秘や神経麻痺といった症状がでている場合には、乳児ボツリヌス症を発症している可能性があります。すぐに病院を受診するようにしましょう。
まとめ
栄養価が高く、体にいい食品なので、積極的に摂取したいハチミツですが、消化器官や腸が未発達な1歳未満の赤ちゃんには死のリスクも伴う危険な食品です。ハチミツを食べたら、必ず乳児ボツリヌス症を発症するというわけではありませんが、リスクを回避するためにも、1歳を過ぎるまでは与えないように注意しましょう。
消化器官が発達してきた1歳を過ぎた赤ちゃんには、乳児ボツリヌス症の発症例がありません。1歳を過ぎてからは、離乳食の強い味方として有効活用しましょう。体にもよく、甘みととろみがあるので、離乳食の進みが悪い赤ちゃんには、その効果を十分に発揮してくれるかもしれません。
ハチミツは万能調味料として、様々な料理に活用できます。1歳を過ぎた子どもから大人まで幅広い世代で活躍してくれる食品ですので、1歳を過ぎるまでの1年だけは、ハチミツを控えるようにしましょう。